2012年 12月 の投稿一覧

冠動脈バイパス術は血流の迂回路を作る

カテーテル治療が困難な場合に行われる

狭心症や心筋梗塞で、カテーテルによる治療が困難または不可能な場合には、冠動脈バイパス術を行います。
冠動脈の狭い部分は血液の流れが悪く、たとえていえば市街地の交通渋滞の状態です。渋滞緩和のために作られるのが、市街地を迂回するバイパス道路です。冠動脈バイパス術は、いわば冠動脈のバイパス道路建設工事のようなものです。冠動脈の狭い部分、あるいは詰まってしまった部分には手をつけず、からだのほかの部分の血管を使ってバイパス道路を作ります。手術を行うかどうかの判断は患者さんの病状、年齢、社会的状況、合併症やほかの病気の有無などを考え合わせて、総合的に判断します。
だいたい次のような状態の場合に、手術を考慮します。

  • 左冠動脈の根本(主幹部) に狭窄がある
  • 狭窄率が75%を超える病変が複数の枝にある
  • 経皮的冠動脈形成術ができない、または何回行っても、再狭窄を繰り返す

下肢の静脈などを使ってバイパスを作る

バイパス用に使う血管はグラフトといいます。胸骨の裏を走る左右内胸動脈、胃のそばにあと、つる右胃大綱動脈、左右前腕の橈骨動脈などがよく使われます。大伏在静脈を使うこともあります。これらの血管を採取しても、とくに悪い影響を残すことはありません。しかし、グラフトとしての耐久性には差があります。日本では、10年で内胸動脈が10% 、大伏在静脈が30%程度、閉塞する確率があると報告されています。
手術後も主治医と相談し、バイパスが閉塞しないよう気をつけなければなりません。手術は、グラフトの採取と同時に開胸して行われます。心臓を停止させ、そのかわりに人工心肺を使う方法と、人工心肺を使わない方法があります。

冠動脈造影検査で手術方法を考慮する

手術を行う前には、負荷心電図、心エコー、心筋シンチグラム(RIシンチ)、冠動脈造影検査などを行い、心臓の状態を総合的に把握します。
なかでも欠かせないのが、冠冠動脈造影検査は、通常、術前3か月以内に行ったデータが有効とされています。しかし、必要な場合には、手術直前に再度、検査を行うこともあります。
手術後は、2~4日間ほど集中治療室(ICU) で過ごしてから一般病室に移ります。一般的に術後1週間ごろから心電図などで状態を監視しながら、エルゴメータなどによる運動療法を開始します。
バイパス術後の運動療法で、グラフトの閉塞率が10分の1になつたとの報告もあります。

虚血性心臓病のカテーテル治療とは

外科的手術ではないカテーテル治療という選択

狭心症や心筋梗塞の患者さんで、動脈硬化により血管が狭くなっていたり詰まっている場合には、狭窄部分を広げる治療、あるいは狭窄部分を迂回するバイパスを作る手術が行われます。
ここでは、カテーテルという細い管を使って行う経皮的冠動脈形成術(PTCA)についてです。
心臓病の治療でカテーテルが利用されるようになったのは、1970年代に開発されたパルーン(風船)による冠動脈血行再建法がはじまりです。
それまで、詰まってしまった、あるいは詰まりかかった冠動脈の血行を回復するためには、バイパス手術しか方法がありませんでした。バイパス手術は開胸術を必要とする大手術です。からだへの負担をできるだけ少なくして血行を再建する、そのために開発されたのがバルーン療法です。

バルーンで広げたり病巣を削る方法も

カテーテルによる治療は、このバルーン療法からはじまり、最近は、狭窄部を広げた状態を保つステント(STENT)、狭窄部を削り取るDCA、動脈硬化巣を粉砕するロタブレ一夕(ROTA)などが行われています。
このようにカテーテルを用いて行う治療全般は、カテーテルインターベンションと稔称されています。カテーテルによる治療では、どの場合も冠動脈造影検査と同じょうに、カテーテルという細い管を、太もものつけ根、あるいはひじなどの動脈に挿入し、直接冠動脈の入り口まで通すことでスタートします。
どこから挿入するかは、病院によって異なります。術後、患者さんの生活への支障を最小限に留めるため、右手が利き手の場合は、左手のひじや手首などから挿入することもあります。これは患者さんの状態にもよりますし、医師が慣れていてやりやすい方法、ということで選択する場合もあります。また、患者さんの血管の状態にも大きく影響します。

先端に風船を装着し拡張する

カテーテルの中には、さらに細い針金が入っています。カテーテルが狭窄部に到達したら、この針金を狭窄部に通します。狭窄部が完全に詰まっているときは、そこをこじあけて先まで送り込みます。
カテーテルには拡張作業を行う道具が装着されています。針金をガイドにして、こうした道具を狭窄部まで持っていき、拡張の作業を行います。ここまでの作業は、すべてのカテーテル治療に共通しています。狭窄部に到達してから、狭窄部を押し広げるのがバルーン、押し広げた部分を維持するために貼りつけられるのがステント、動脈硬化巣を削り取るのがDCA、動脈硬化巣を粉砕するのがロタブレ一夕です。ほかにレーザー、TECなどの方法がありますが、これは、あまり一般的ではありません。

局所麻酔で行い回復も数日

治療は局所麻酔で行うのが一般的です。個々の患者さんの状態によっては全身麻酔を行うこともあります。
全体の所要時間は数数十分から1~2時問で、病気の状態によってさまざまです。痛みを感じるのは、最初の局所麻酔とカテーテルの外筒を血管に入れるとき、それに拡張作業を行っている問は冠動脈の血流が止まりますから、数10秒程度痛みを感じます。術後の安静時間は病院によってさまざまです。
標準的に足のつけ根から行い、圧迫止血する方法では、8~24時間の安静を必要とします。

バルーンで細くなった血管を広げる

以前はPTCAというとバルーンによる治療をいいましたが、ステントが全盛の現在で心、POBAと呼ぶこともあります。
バルーンでの拡張作業はモニターを見ながら行います。一度の作業で十分に拡張しないときには、何度か拡張作業を繰り返し、血流が回復したら、バルーンをしぼませてカテーテルといっしょに引き抜きます。バルーン療法は、患者さんへの負担が少ない画期的な治療法ですが、2つの大きな問題があります。

敷数か月で再狭窄の可能性

バルーン療法では、血管を広げる際に、その内側に傷をつけることが避けられません。血管には傷を修復しょうとする機転が働きますが、その作業が必要以上に働くと、傷あとが盛り上がって再狭窄という事態が起こることがあります。人間の体がもつ本来の防衛機能でもあります。
せっかく広がった冠動脈が術前と同じ、ときには術前よりひどい狭窄を起こすことがあります。再狭窄は、バルーン療法後、3~4割くらいに起こるとされています。再狭窄が起こるメカニズムははつきりとはわかっていません。バルーンなどによって引き伸ばされるためだと考えられています。

広げた部分を支えるステント

ステントとは、金属製の小さな網状をした筒です。バルーンといっしょに血管に入れて、バルーンによって広げた血管の壁に貼りつけ、壁を支えます。
ステント法は、バルーン療法による急性冠閉塞を防ぐ手投として開発されました。術後に起こる再狭窄も、バルーンより少なく20%前後といわれています。
ステント特有の合併症として、以前は術後2週間くらいの問にステントを入れた場所に血栓が付着して、血管が閉塞してしまう亜急性血栓性閉塞というものがありました。現在、これは薬の工夫によって、ほとんど起こらなくなっています。

運用できないケースも

ステント法も残念ながら、万能の治療法とはいえません。これによって、すべての再狭窄が予防できるかといえば、そういうわけではありません。バルーンのほうがよい結果を期待できる病変もあります。ステントが入ったために、かえってややこしい形の再狭窄が起こつたり、ほかの血管をつぶしてしまうこともないことではありません。
ステント法を行うかどうかの判断は非常にむずかしいのですが、狭窄部分の状態や患者さんの年齢、仕事などの条件も加味して検討することになります。

DCAは狭窄部分を削る

DCAは、アテレクトミー療法ともいいます。バルーンやステントが動脈硬化巣を押しっぶすのに対して、DCAでは、狭窄部の粥腫を削り取ります。削り取られた粥腹は器具の先端部にためられて、体外に取り出されます。

利点は異物を残さない

DCA は、ステントのように体内に異物を残さないという利点があります。DCAで十分に粥腫を切除すると、再狭窄はステントと同様に少ないことが証明されています。左前下行枝や左回旋枝の入り口のような重要な場所の狭窄は、DCAで広げるのがよいのではないかと考えられます。
ただし、DCAでは正常な部分を削ってしまったり、冠動脈に穴を開けてしまうという極めて重大な合併症を引き起こす危険性がないわけではありません。熟練した技術が必要なため、実施している病院も限られているのが現状です。また、すべての粥腫がDCA の対象になるわけではありません。極端に細い血管、曲がった血管、石灰質が血管についているような硬い病変は、DCAが苦手とするところです。

ロタブレ一夕は動脈硬化部分を粉砕

動脈硬化が進むと、血管壁に石灰が付着して極端に硬くなることがあります。そうした血管では、バルーンで拡張しょうとしても十分広がりません。
ロタブレ一夕は硬い血管壁を粉砕する強力な道具です。カテーテルの先端にこの器具を装着して病巣部分に挿入し、弾丸型のダイアモンドチップを一分間に15万回以上回転して、硬い粥腫を赤血球大にまで粉砕します。

再狭窄を防ぐためのポイント

カテーテルによる治療の初期成功率、つまりとりあえず治療がうまくいき、無事退院できる確率は、95% を超えるようになりました。しかし、まだ重大な問題が残っています。どの方法にしてもカテーテルによる冠動脈治療では、血管の内側に傷をつけることは避けられません。血管にはその傷を修復しようとする機転が働きます。術後数ヶ月以内に再狭窄を起こすことがあります。
ステントあるいはDCA が完全にできると、再狭窄は起こりにくくなります。それでも再狭窄の可能性は2割程度はあり、薬で再狭窄を減らそうという試みが行われていますが、今のところ決め手になるものは見つかっていません。治療直後にどんなにきれいに見えている血管でも、再狭窄は起こることがあります。
症状がなくても、3か月~6か月後には医師の指示にしたがって、冠動脈造影検査を受け、再狭窄の有無を確認することが必要です。再狭窄がある場合は、再度治療することができます。
ポイントは、術前と同じようなな症状が出てきたときに、必ずすぐに主治医に連絡することです。次の外来予定日までがまんしているうちに心筋梗塞を起こしてしまった、というような残念なケースもあります。
再狭窄は、安静にしていれば起こりにくいというわけでもありません。術後2週間くらいは過激な運動は避けるとしても、そこから先は医師に勧められた運動を、注意深く、しかし恐れずに行いましょう。再狭窄を防いだり早く見つけるうえで、運動を行うことと定期的な検査は重要なポイントです。

手術をすすめられる場合

インフォームドコンセプト

医師が患者さんに手術(ここではカテーテルによる治療も含めます)を勧める理由には、おおむね次の2つがあります。

  • 薬などによる治療だけでは、症状がよくならない
  • 薬物療法よりも効果が上がる見通しが高い

心臓病の場合、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心臓病、一部の不整脈、重症の心不全、大血管の病気、一部の心臓弁膜症、先天性の心臓病などのために心臓の横能が非常に低下したときに、手術あるいはカテーテルによる治療を勧めます。
どんな治療を行うかは、医師の判断のみで決めるわけではありません。最近は「インフォームド・コンセント」という言葉が広まってきました。「説明に基づく同意」と訳し、医師が病状や治療法の説明を行い、患者さんや家族は内容を検討したうえで、納得したら同意するということですが、最近はこれよりも一歩進んだ解釈をするのが一般的です。
つまり、医師は治療法について選択肢があれば、それぞれについてメリット、ディメリットを説明し、どの治療法を選択するかは、患者さんが決めるという考え方が多くなっています。患者さんの権利を尊重する意味では、これが理想的といえましょう。
しかし、現実問題として、患者さんや家族が、病気についての専門的な知識をすべて持っているかといえば、そうとは限りません。医師は患者さんに情報を捉供する必要がありますが、そのうえで専門家としての判断も伝え、最終的な決定を思著さんにゆだねる
ということになるでしょう。

医師が説明明する内容

  • なぜ手術が必要か。また、手術によって得られるメリット
  • 手術の手順、方法
  • 手術の安全性と危険性
  • 発生する可能性のある合併症や後遺症
  • 手術直後に必要な処置と入院中の治療
  • 回復の経過と予測

こうした説明は、緊急手術時にも行われます1ただ、本人も家族も動転していて開き逃すことがあるかもしれません。
説明は、患者さんだけでなく、看病する家族の方にも知っておいていただきたいものです。
できれば複数の人で聞くことをお勧めします。
ただし、説明する内容は、これまでの経験に基づいたものに限られます。
手術は万全を期して行いますが、ときに予測できない事態が起こりうることも知つておいてください。
状況が変われば、そのときにも医師は必ず説明を行います。患者さんや家族の中には、専門的な内容はわからないから医師に任せるという人も少なくありません。
その場合も可能な範囲で前述した内容は把握しておいてほしいものです。
医師の説明がわからない、というときは、遠慮なく質聞をしてください。

希望や心配ごとも伝える

さらに大切なのは、患者さんが今後どのような生活を送りたいのかを、主治医にはっきり伝えることです。「手術後、早急に職場に復帰したい」、「危険な手術は受けたくない」、といった希望は遠慮なく医師に伝えてください。「高齢なので、体力的に無理なのではないか」、「ほかに方法はないのか」といったことも、もちろん大切な質問です。医師は患者さんにとって最良の方法を考え、患者さんにアドバイスをすることになります。それには、こうした患者さんからの情報が非常に重要です。