再発防止

高齢者が生活をする上で気を付ける点

全身状態の影響から急変も多い

高齢者は、高齢であるというだけで動脈硬化の危険因子を持っていることになります。冠動脈硬化だけでなく、全身の動脈硬化が進んでいる可能性があります。
狭心症あるいは心筋梗塞の患者さんでは、脳血管障害や大動脈癖、下肢の閉塞性動脈硬化などのチェックも欠かせません。
高血圧、腎機能の低下、耐糖能(血糖のコントロール) の低下などを伴っていることも少なくありません。病気を発症すると、急変することも考えておかないといけません。軽いかぜから肺炎を併発し、心肺機能が急速に低下するといったことも起こります。

痛みの自覚症状がない場合も

症状が典型的でないことも知っておく必要があります。胸痛が起こらず、息切れや動惇程度で狭心症を発症していたり、急性心筋梗塞でも、痛みを訴えることなく意識がなくなるといったことが起こります。
急性心筋梗塞では、高齢の患者さんの約3割は胸痛を感じていなかったというデータもあります。とくに糖尿病で神経障害があったり、大脳に障害がある人では、こうした無症候性の心筋虚血が起こることがあります。
食欲がない、口数が少なくなった、など、「いつもと違う」ということが、異変をとらえる大きなポイントになります。以上のことを考えると、病気を抱えるお年寄りでは、介護保険の訪問看護サービスなどを利用して、ふだんから専門家に病気の管理をしてもらうのも一つの方法です。訪問看護では緊急の対応にも応じてもらえます。

高齢者の場合、長年続けてきた生活習慣を変更することはなかなか困難ですが、危険因子をできるだけ減らすことは大切です。
禁煙は今さらと思っても、実行するにこしたことはありません。心臓だけでなく腎機能の低下などを考えると、食事を出来る限り薄味にすることも大切です。
ただ高齢になって、あれもだめ、これもだめと強制することは、意欲の低下にもつながります。主治医と相談し、様子を見ながら、できることから取り入れていくのがよいでしょう。
年をとると外出がおっくうになり、筋力も呼吸の能力も低下しがちになります。デイサービスを利用したり、家のなかで簡単な体操をするなどの習慣をつけるのもよいことでしょう。

女性の虚血性心臓病の人が生活をする上で気を付ける点

閉経後は、動脈硬化がすすみやすい

女性ホルモンのエストロゲンは、肝臓のLDL受容体を増やして血清中のLDL圧を安定させ、血糖値のコントロールにも大きな役割を果たしています。
また血管に直接作用して血管の収縮をコントロールしたり、内皮細胞や血管平滑筋細胞などの作用にも影響をおよぼしています。
閉経前の女性では、男性に比べて虚血性心臓病を発症する率が非常に低いのですが、閉経後は、高脂血症、高血圧、高血糖、肥満などが同時進行的に増加することが多いようです。年をとるにつれて動脈硬化が進行し、65歳以上の女性の心筋梗塞は男性とほぼ同率になります。

更年期後は、健康に注意

更年期前後の女性では、労作性狭心症と同様の胸痛が起こることも少なくありません。更年期に伴う自律神経の失調や、過労、睡眠不足、ストレスなどが誘因となっていると考えられています。原因がはっきりしないケースも多く、今後臨床の結果が待たれます。
この時期は血圧も不安定になることがあり、めまいや起立性低血圧を起こす人もいます。更年期の症状は、年齢のせいだからしかたがないと考えがちです。また、男性に比べると、健康診断を利用する人が少なく、とくにからだに負担がかかる検査に対して消極的であるというデータもあります。更年期前後には健康の総点検として、自覚症状がなくても健康診断を受けることが大切です。
その後も、毎年一回は健康チェックを受けるようにしたいものです。更年期前後には、基礎代謝量も減ってきます。エストロゲンの急激な減少も加わり、太る人が少なくありません。食べ過ぎにも注意するとともにふだんから活動量を増やすことも大切です。運動は、更年期にありがちな自律神経のアンバランスを整える作用もあります。

ホルモン療法も

更年期障害の治療法として行われるホルモン補充療法(HRT) は、高LPa血症などの高脂血症、骨粗餐症の予防としても有効であることがわかっています。ただし、血栓症があったり、乳がんの患者さんは、エストロゲンが病状を悪化させるので利用できません。
副作用として乳がんの発症が問題になっていますが、これは定期検診により早く発見できれば治療が可能です。作用と副作用を勘案し、抗高脂血症薬などの服用も含めて検討することが大切でしょう。

閉経前から危険因子には注意する

閉経前の女性は、男性に比べて虚血性心臓病の発症が少ないのですが、エストロゲンが減少してくる月経前には、狭心症の発症率が高くなります。喫煙や高脂血症、家族歴などがある女性では、エストロゲンが最も少なくなる月経直後に、心筋梗塞が起こりやすいとの報告があります。
喫煙は動脈硬化の重大な危険因子ですが、女性の喫煙率はなかなか減りません。若い女性では、やせていてもコレステロールが多い人がいます。虚血性心臓病は、危険因子が重なると発症しやすくなります。禁煙、運動、適切な食事療法を行って、少しでも危険因子を減らすことが大切です。

太っている人が生活をする上で気を付ける点

内臓脂肪型肥満は動脈硬化の原因に

肥満とは、からだにとって余分となった体脂肪が蓄積した状態です。体脂肪には皮下脂肪と内臓脂肪がありますが、虚血性心臓病を引き起こすのは、おもに内臓の回りに溜まる内臓脂肪です。
内臓脂肪型肥満は、糖尿病、高血圧、高脂血症、痛風など動脈硬化と関わりの深い病気を引き起こします。ビール腹のように突き出したおなかをCTスキャンや超音波装置で観察すると、脂肪の蓄積が見られます。
体重が増加していても、皮下脂肪だけが増えているのなら、内臓の病気の心配は少ないですが、内臓脂肪が増えている場合は、肥満症として治療することが必要です。
内臓脂肪は危険な脂肪ですが、皮下脂肪に比べると代謝が活発で、分解もしやすいとされています。食事や運動で体重を減らすと、まず二週間ほどで内臓脂肪が減ります。高脂血症や高尿酸血症、脂肪肝なども改善することが多くなっています。

膝・腰を強化しつつ有酸素運動をする

体脂肪を燃やすには、有酸素運動を20分以上続けて行うのが効果的です1最近の研究では、10分くらいの細切れの運動でも、回数が多く運動の習慣が持続すれば、同様の効果が得られるといいます。
ふだん時間がとりにくい場合は、こまめにからだを動かし、通勤時問に歩く距離を延ばすなどの工夫をするとよいでしょう。
活動的な生活を続けると基礎代謝量がふえ、安静にしているときでも消費するエネルギーが多くなります。
太っている人では、ひざや腰への負担が大きく、長距離を歩くのがむずかしい人もいます。いすに座って下肢を水平に上げたり下ろしたりする体操は、ひざを支える筋肉の強化に役立ちます。
腹筋運動は、腰痛の予防に有効です。あお向けに寝て、ひざを曲げ、おへそが見える程度に上体を起こして、その姿勢を数秒維持する体操は、手軽にできる腹筋のトレーニングです。継続が難しく途中でやめてしまう人が大変ですが、継続して脂肪が落ちてくると、体の調子が良好であることが実感できます。

1ヶ月のダイエットは1~2kg程度が最適

当然、食事は食べる量を控えますが、栄養の質が低下しないような注意が必要です。間食や甘い飲み物、酒など糖質以外の栄養素が少ないエンプティ食品を中心に、食べる量を減らし、エネルギーが低くて、食物繊維やビタミン、ミネラルが豊富な野菜や海藻、きのこなどを多めにとりましょう。
体重は、1月に1~2kgくらい減らすのが適切です。食事を減らすだけでは、筋肉がやせて体力が低下します。リバウンドといって体重が元に戻りやすく、その時には体脂肪が増えて、さらに太るという悪循環になります。運動を併用すると、筋肉を落とさずに減量することが可能です。