カテーテル治療が困難な場合に行われる

狭心症や心筋梗塞で、カテーテルによる治療が困難または不可能な場合には、冠動脈バイパス術を行います。
冠動脈の狭い部分は血液の流れが悪く、たとえていえば市街地の交通渋滞の状態です。渋滞緩和のために作られるのが、市街地を迂回するバイパス道路です。冠動脈バイパス術は、いわば冠動脈のバイパス道路建設工事のようなものです。冠動脈の狭い部分、あるいは詰まってしまった部分には手をつけず、からだのほかの部分の血管を使ってバイパス道路を作ります。手術を行うかどうかの判断は患者さんの病状、年齢、社会的状況、合併症やほかの病気の有無などを考え合わせて、総合的に判断します。
だいたい次のような状態の場合に、手術を考慮します。

  • 左冠動脈の根本(主幹部) に狭窄がある
  • 狭窄率が75%を超える病変が複数の枝にある
  • 経皮的冠動脈形成術ができない、または何回行っても、再狭窄を繰り返す

下肢の静脈などを使ってバイパスを作る

バイパス用に使う血管はグラフトといいます。胸骨の裏を走る左右内胸動脈、胃のそばにあと、つる右胃大綱動脈、左右前腕の橈骨動脈などがよく使われます。大伏在静脈を使うこともあります。これらの血管を採取しても、とくに悪い影響を残すことはありません。しかし、グラフトとしての耐久性には差があります。日本では、10年で内胸動脈が10% 、大伏在静脈が30%程度、閉塞する確率があると報告されています。
手術後も主治医と相談し、バイパスが閉塞しないよう気をつけなければなりません。手術は、グラフトの採取と同時に開胸して行われます。心臓を停止させ、そのかわりに人工心肺を使う方法と、人工心肺を使わない方法があります。

冠動脈造影検査で手術方法を考慮する

手術を行う前には、負荷心電図、心エコー、心筋シンチグラム(RIシンチ)、冠動脈造影検査などを行い、心臓の状態を総合的に把握します。
なかでも欠かせないのが、冠冠動脈造影検査は、通常、術前3か月以内に行ったデータが有効とされています。しかし、必要な場合には、手術直前に再度、検査を行うこともあります。
手術後は、2~4日間ほど集中治療室(ICU) で過ごしてから一般病室に移ります。一般的に術後1週間ごろから心電図などで状態を監視しながら、エルゴメータなどによる運動療法を開始します。
バイパス術後の運動療法で、グラフトの閉塞率が10分の1になつたとの報告もあります。