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狭心症の発作を抑える硝酸薬

舌下錠や噴霧薬

狭心症の発作を鎮める硝酸薬は、一度狭心症の発作を起こした患者さんには、携帯するように一定量が処方されます。
舌下錠と噴霧薬は即効性がありますが、15分ほどしか効きません。このため、数時間以上効果が続くタイプも、予防薬として処方されます。
この薬を使っているときは、勃起不全治療薬のバイアグラを絶対に使用しないでください。互いに血管拡張作用が増強され、ときに死に至るほどの低血圧を起こします。

舌下錠は舌の下に入れて溶かすと、成分が口の粘膜から吸収されて効果を現します。口の中が乾いているときは唾液で溶かすか、水をひと口飲んでから舌の下に入れるとよいでしょう。ニトログリセリン、ニトロペンは飲み込んでしまうと効きません。
ニトロールは飲み込んでも効きますが、効果はずっと弱くなります。早く効かせたいときは、錠剤をかみ砕いてから舌の下で溶かすと、1分くらいで効いてきます。噴霧薬は、高齢者など口が乾きやすい人に使いやすくなっています。口を開けたまま息を止めて口の中にスプレーして、すぐに口を閉じます。30秒くらい唾液を飲み込まないようにすると、効果がよく現れます。

副作用でふらつくこともあるので座ってから

硝酸薬は血管拡張作用があり血圧が少し下がります。まれに気分が悪くなったり、ふらつきやめまいが起こることがあるので、座った姿勢安全を確認してから使います。
血圧が下がって気分が悪くなったときは枕をしないで横になり、足を高くしておくと、15~20分くらいで回復します。
横になれないときは、座って前かがみになり頭を低くします。薬が効かない場合は、薬によって2~3回使用できますが、それでも胸痛が15分以上続くときは、重い狭心症か心筋梗塞になっている可能性があります。すぐに救急車を手配しましょう。
この薬は重大な副作用はほとんどありません。東部の血管が広がると一時的に頭痛がしたり、顔がほてったり、吐きけがすることがあります。血圧低下に伴って、頻脈が出ることもあります。しばらく使うと慣れてきますが、症状が続くときは、医師に相談してください。発作が治まってから口をすすぐと、少し副作用が軽くなります。

予防的に使用することも

薬を処方されたら、いつも必ず携帯してください。発作が起こったらすぐに使うほか、発作が起こりそうな作業や運動をする前にも使うとよいでしょう。薬を使っても効き方が悪くなったり、発作の回数が増えた、あるいは痛みが強くなった場合は、次の診察日を待たないで連絡してください。
薬は予防的に使った場合も含め、使用した日時、状況、効き方をメモして、主治医に報告します。

狭心症の治療の進め方

硝酸薬発作を抑える

狭心症にはいくつかのタイプがあり、それぞれ治療法が異なりますが、発作が起こつたときには、まず発作を鎮めるための治療が行われます。それには、まず安静にして、ニトログリセリンなどの硝酸薬を使います。硝酸薬はどのタイプの狭心症にも有効で、次の作用があります。

  • 冠動脈を拡張させて心筋への血液の流れを改善
  • 全身の静脈を拡張させて心臓へ帰ってくる静脈血の量を減らし、ポンプの負担を軽減
  • 全身の動脈を拡張し、血圧を下げて、心臓への負担を軽減

以上の作用により、心筋へ送り込む酸素を増やす一方で、心筋で使われる酸素量を減らし、結果として心筋の酸素不足を解消して発作を鎮めます。硝酸薬が効きにくくなるなど不安定狭心症の疑いがある場合は、発作を鎮めると同時に心筋梗塞への移行や急死を防ぐために、入院して24時間体制で血圧や心電図をモニターし、管理します。

薬物療法を中心に禁煙、運動などで再発を防止

発作が治まってからの治療は、安定狭心症も不安定狭心症もほぼ同じで、基本となるのは薬物療法です。再発予防のために、ベータ遮断薬、持続性硝酸薬、カルシウム括抗薬、アスピリンなどの抗血小板薬もよく使います。これらの薬は虚血性心臓病で使うものです。
日常生活では動脈硬化を防ぐためのくふうが必要です。とくに重要なのは、禁煙と運動です。

カテーテル治療やバイパス治療を行うケースもある

以上の治療を行っても発作が起こりやすかったり、心筋梗塞になる可能性が高い場合には、血管一そのものの治療をしたほうがよいかどうかを検討します。
冠動脈造影により病状をチェックして、カテーテルによる治療あるいは冠動脈バイパス手術を選択することになります。
こうした治療をしても、動脈硬化が起こった血管を元どおりにはできません。糖尿病があると、カテーテル治療をしても予後はよくならないとされています。
最近の研究では、スタテン系の抗高脂血症薬と適切な運動療法が、プラークを安定させ、動脈硬化をよくするとされ、高脂血症の人ではスタチン系の薬がよく使われます。一番だいじなのは、日常生活に注意し、危険因子を減らしていくことです。

複数のタイプがある狭心症

典型的な症状は胸痛

狭心症では、胸の中央部が締めつけられる、あるいは何かを押しつけられているような圧迫感を感じます。
痛みは、左肩・腕やあごまで広がり、ときには左の奥歯やみぞおちのあたりが痛むこともあります。痛みの場所は境界がはっきりしません。
「ここだけが痛い」と指で示せるような場合は、狭心症の可能性は低いといっていいでしょう。症状の持続時間は致10秒から数分で、30分とか1時間以上も続くことはありません。息切れや呼吸困難として自覚されることもありますが、これが狭心症による場合は、かなり重症である可能性があります。

労作時に起こるタイプと安静時でも起こるタイプがある

狭心症には冠動脈の動脈硬化が原因で起こるタイプと、冠動脈のけいれんが原因で起こるタイプがあります。

労作性狭心症

冠動脈硬化のために血液の通り道が狭くなつていると、運動や緊張など何らかのきっかけで、心臓がふだん以上に酸素を必要としたときに、その供給が間に合わなくなることがあります。心筋が酸欠状態になり胸痛が起こりますが、このように何らかの労作や緊張をきっかけにして起こる狭心症を、労作性狭心症といいます。きっかけとしては、

  1. 急ぎ足で歩いた
  2. 階段や坂道を登った
  3. ひどく興奮した
  4. たばこを吸った
  5. 食事をした

などがあります。
ほかにも、重いものをいきなり持ち上げたり、急激に冷たい空気にさらされたときなどにも、発作が起こることがあります。
また、悪条件が重なる、たとえば、会議中にイライラしてたばこを立て続けに吸い、興奮して立ち上がったときに、強い胸痛に襲われたという人もいます。川崎病の後遺症や、大動脈弁膜症が原因で起こることもあります。

血管撃縮性狭心症

冠動脈が勝手にけいれんして縮んでしまうと、冠動脈に一時的に動脈硬化と同じような詰まりが生じて発作が起こることがあります。
これを血管撃縮(=スパスム)性狭心症といいます。血管内皮に何らかの異常が起こっていて、自律神経系の異常が起こつたときなどに引き起こされるのではないかといわれています。
これは日本人に多く、深夜や明け方の就寝中など安静時に起こるため、安静時狭心症とか異型狭心症といわれます。
労作性狭心症が心筋の酸素の需要が増えるとき起こるのに対して、安静時狭心症は一方的に酸素供給が減ることで起こります。
血管撃縮性狭心症の中には、労作で攣縮が誘発されるタイプもあります。また、冠動脈狭窄があり、それに加えて冠撃縮が起こる場合もあります。このタイプは、とくに日本人に多いようです。

心筋梗塞への移行が心配な不安定狭心症

狭心症は病状によって、安定狭心症と不安定狭心症に区別されます。

安定狭心症

狭心症の患者さんのなかには、どの程度の動作あるいは緊張によって発作が起こるのか、経験でわかっている人がいます。
たとえば、毎朝いつもの駅で階段を上がりきったところで症状が出て、2~3分休むと治ってしまう、というような発作です。これは安定狭心症といわれ、発作が起こっても、安静にしたり、薬を使うと症状が治まります。このタイプの人の血管の内部を調べると、動脈硬化のために内腔が狭くなってはいても、プラークが右H灰化して硬く破れにくくなっていることが多いのです。定期的な検査は必要ですが、急に心筋梗塞に移行する可能性は比較的低いといわれています。

不安定狭心症

新しく出てきた労作性狭心症や安静時狭心症、あるいはいままで安定型であっても発作の回数が増えたり症状が強くなる、
あるいは長引くようになつたものは、不安定狭心症と診断されます。ニトログリセリンが効きにくくなったり、静かにしていても発作が起こるタイプも不安定狭心症です。このタイプの人の冠動脈の内部を観察すると、血液の通り道が狭くなっているほか、プラークが出崩れやすい状態になっています。
血栓を作りやすかったり、血管のけいれんも起こりやすくなっている可能性があります。不安定狭心症は、プラークが崩れたり血栓となつて、血管を詰まらせる可能性があります。心筋梗塞の前兆ともいえるタイプです。約3分の1が心筋梗塞に移行するといわれ、危険な急性冠症候群の一つに数えられています。このため、入院して、心筋梗塞と同じような管理が必要となります。

糖尿病、高齢患者では気づかないこともある

狭心症の発作の中には、1分くらい軽い胸痛があってもU、すぐに治まって、それと気がつかない場合もあります。
高齢者や糖尿病のある人では、痛みの感覚が低下していて気づかない例も少なくありません(無痛性虚血性心疾患)。
痛みがないからといって、病気が軽いわけではありません。症状がない分、無理をしたり、発見が遅れるなど、危険率が逆に高くなります。
とくに、糖尿病は全身の血管に動脈硬化を引き起こす病気です。虚血性心臓病になると、予後はよくありません。自覚症状に頼らず、冠動脈のチェックをしておくことが欠かせません。