安静時心電図 は(Resting ECG / Resting Electrocardiogram)とは、患者がリラックスして安静にしている状態で測定される心臓の電気的活動の記録です。心臓病の診断や健康診断の項目として一般的に用いられます。
安静時心電図 12種の電気の流れを心電計に記録
心電図検査は、心臓の異常を調べるときに行う重要な検査です。一般的に行われるのは、一二誘導心電図というものですが、これは安静の状態で検査するので、安静時心電図ともいいます。
ベッドに横になって安静にし、両手首と両足首に一個ずつ、前胸部に六個の電極をつけ、心臓の中で起こっている現象を一二の方向から眺めて記録します。
同じ電気現象を見ているわけですが、心電図は口見る方向によって形が異なります。医師はこれを総合して頭の中で立体的に組み立て、左右の心房・心室の電気的興奮や動きを調べます。
上衣は脱ぎ着がしやすいものにします。スラックスは裾にゆとりがあると、脱がずに検査を受けられます。
素足がすぐ出せるように、パンティストッキングよりはソックスがよいでしょう。
時計や指輪、ネックレスなどは、はずす必要はありません。電極を装着後、心電図を記録する時仙間は1分前後です。力を入れたりすると、波形に乱れが生じることがあるので、リラックスしましょう。
縦軸は電位変化、横軸は時間
心電図には波形が記録され、縦軸は電位変化、横軸は時間を示します。波形には、P、Q、R、S 、T 、Uの名前がつけられていますが、名前に特別な意味はありません。
心臓は刺激伝導系を伝わる電気信号によって、縮んだり凄んだりして血液を循環させますが、そのペースメーカーは、洞結節という特殊心筋です。
- 洞結節から発信された信号は、まず右心房を刺激し、その後、左心房を刺激して心房を収縮させます。このとき現れる波をP波といいます。
- 洞結節から放電された電気信号は房室結節に集められ、いったんスピードダウンします。血液が心房から心室へ流れる時間を稼ぐためです。
- その後、ヒス束、右脚・左脚へと分かれ、プルキンエ繊維へ猛スピードで伝わって心室を収縮させ、QRS波を形成します。
- 心室の興奮が収まって回復過程に入ると、T波と呼ばれるゆるやかな波が現れます。Q RS彼の終わりからT彼の始まりまでをST部分といいます。
収縮運動の異常を示す心電図
洞結節から心室全体に電気信号が伝わるまでの時間は、0.2~0.3秒くらいです。洞結節は安静時には一分間に50〇~100回の電気信号を発しています。
心臓は、この信号を自発的に発信して収縮します。これを心臓の「自動能」といいます。自動能は刺激伝導系の特殊心筋のすべてが持っています。
心室や心房の筋肉はふだんは自動能を持ちませんが、洞結節が信号を出さなかったり、心房からの刺激が伝わってこない場合などには、自動能を持つことがあります。こうして心臓には幾重もの安全装置が備わり、規則正しいリズムで動いています。
ところが、心筋に虚血が起こつたり、電解質や自律神経系に異常が生じると、刺激伝導系はうまく作動せず、収縮運動に異常をきたします。刺激伝導系の特殊心筋や心臓を収縮させる作業心筋に異常があっても、心電図に異常が現れます。心電図の異常は、大別すると2つあります。1つはリズム、もう一つは波形です。
刺激伝導系の異常
刺激伝導系の異常は、不整脈となって心電図に現れます。不整脈には、さまざまな種類がありますが、大きく分けると、リズムが乱れる期外収縮や心房珊動、遅くなる徐脆、速くなる頻脈があります。
波形の異慧
病気が原因の場合は、波形に異常が現れます。たとえば、熟練した専門医は心電図の波形を見るだけで、心筋虚血の起こつた場所と状態を推定することができます。労作性狭心症の発作の最中には、ST部分が低下します。これは心内膜層の虚血のために起こります。スパスム(けいれん) 型の狭心症では、STが下がる場合もありますが、虚血が強いと、逆に一過性にST部分が上昇することがあります。
心筋梗塞の発作時には、ST部分が上昇し、しばらくすると深いQ波が現れます。深いQ波は、心筋が壊死して電気現象が失われたことを表しています。
波形の異常は、こうした心臓痛のほか、呼吸器系の病気や高血圧、甲状腺の痛気、電解質の異常による病気でも起こります。
ただし、原因となる病気のすべてが安静時心電図でわかるわけではありません。
狭心症や不整脈の一部は、発作時には心電図に異常が現れますが、発作のないときにはまったく正常の波形を示す場合もあります。
安静時心電図 とは? まとめ
安静時心電図とは、健康診断や診察で一般的に行われる、心臓の電気的な活動を記録する検査です。ベッドに仰向けになって安静にした状態で、手首、足首、胸に電極を取り付けて行われます。痛みはなく、数分で終わる手軽な検査です。
主な目的
- 不整脈の有無を確認
- 心筋虚血や心筋梗塞の兆候を発見
- 心肥大(心臓が大きくなっているか)を調べる
- ペースメーカーの動作確認
- 薬の影響を確認
測定方法
- 横になった状態で、胸・手首・足首などに電極を装着
- 約5〜10秒間、心電図を記録
- 心拍数やリズム、波形(P波、QRS波、T波など)を確認
わかること
異常波形 | 疑われる疾患 |
---|---|
STの上昇・下降 | 心筋梗塞、心筋虚血 |
異常なQ波 | 過去の心筋梗塞 |
不整なP波 | 心房細動などの不整脈 |
幅広いQRS波 | 心室性不整脈、脚ブロック |
高いT波 | 高カリウム血症、虚血の兆候 |
注意点
- 一時的な不整脈や異常は、安静時心電図では検出できないこともある
- 胸痛などの症状がある場合は、運動負荷心電図やホルター心電図(24時間測定)を併用することがある
- 食後や緊張状態では心電図に影響が出る場合があるため、安静が大切
安静時心電図 よくあるQ&A
安静時心電図検査は、健康診断や病院で最も一般的に行われる心臓の検査です。心臓の状態を手軽に、かつ詳細に把握できるため、多くの場面で活用されています。この検査について、皆さんが抱くであろう疑問にQ&A形式でお答えします。
Q1: 安静時心電図とはどのような検査ですか?
A1: 安静時心電図は、体が安静な状態にあるときに、心臓が発する微細な電気信号を体の表面から記録する検査です。心臓は、規則的に電気信号を発して収縮・拡張を繰り返しており、その電気活動の異常を波形としてグラフ化することで、心臓の状態を評価します。痛みはなく、数分で終わる手軽な検査です。
Q2: どのような目的で行われる検査ですか?
A2: 主な目的は以下の通りです。
- 不整脈の発見: 心臓の拍動が速すぎたり、遅すぎたり、不規則だったりする不整脈の有無や種類を調べます。
- 虚血性心疾患のスクリーニング: 心筋梗塞や狭心症といった冠動脈疾患の可能性を示す変化(心筋の酸素不足など)がないかを確認します。ただし、安静時心電図では異常が出ない狭心症も多く、確定診断には別の検査が必要となる場合があります。
- 心肥大の有無: 高血圧などが原因で心臓の筋肉が厚くなる「心肥大」がないかを評価します。
- 電解質異常の検出: 体内のカリウムやカルシウムなどの電解質バランスの異常が心臓に影響を与えていないかを確認します。
- 薬の影響の評価: 服用している薬が心臓に影響を与えていないか、治療効果を評価するためにも用いられます。
Q3: 検査時間はどのくらいですか?
A3: 準備を含めても5分から10分程度で完了することがほとんどです。非常に短時間で終わる検査です。
Q4: 検査を受けるにあたって、何か準備は必要ですか?
A4: 基本的には特別な準備は不要です。
- 服装: 胸元や手首、足首に電極を装着するため、ゆったりとした服装や、脱ぎ着しやすい服装がおすすめです。女性の場合、ブラジャーのワイヤーが邪魔になることがあるため、ノンワイヤーのものや、検査着への着替えを指示されることもあります。
- 体勢: 検査中は仰向けに寝て、リラックスした状態で動かないようにします。
- 薬: いつも飲んでいる薬は、通常通り服用して問題ありません。ただし、心配な場合は事前に医師に相談してください。
Q5: 検査中に痛みはありますか?
A5: 痛みは全くありません。 電極を肌に貼り付ける際に少しひんやり感じる程度です。電気を流すわけではないのでご安心ください。
Q6: どのようなことが行われますか?
A6:
- 準備: 検査台に仰向けに寝ていただきます。胸、手首、足首に合計10個の電極(クリップまたは吸盤のようなもの)を装着します。電極と肌の間にゼリー状の導電剤を塗ることがあります。
- 記録: 約10秒間、安静にした状態で心電図を記録します。この間は体を動かしたり、おしゃべりしたりしないようにします。
- 終了: 電極を外し、検査は終了です。
Q7: 検査結果はいつ、どのようにわかりますか?
A7: ほとんどの場合、検査直後に医師が波形を確認し、異常がなければその場で結果を説明してもらえます。より詳しい評価が必要な場合や、他の検査と合わせて総合的に判断する場合は、後日の診察になることもあります。
Q8: 異常が見つかったらどうなりますか?
A8: 心電図に異常が見つかった場合でも、それが必ずしも病気を意味するわけではありません。一時的なものや、年齢による変化、体質的なものの場合もあります。しかし、病気の可能性がある場合は、医師からより詳しい検査(例えば、ホルター心電図、心臓超音波検査、運動負荷心電図、血液検査など)を勧められることがあります。医師の指示に従い、適切な対応をとることが大切です。
Q9: どのような異常が発見されることがありますか?
A9:
- 不整脈: 期外収縮、心房細動、徐脈(脈が遅い)、頻脈(脈が速い)など。
- 虚血性変化: 狭心症や心筋梗塞を示唆するST部分の低下やT波の変化など。
- 心肥大: 心臓の壁の厚さを示す波形の変化。
- 電解質異常: カリウムやカルシウムの異常による波形変化。
Q10: 毎年健康診断で心電図を受けていますが、それで十分ですか?
A10: 健康診断の安静時心電図は、心臓の基本的な状態を確認する上で非常に重要です。しかし、安静時には異常が出にくい「隠れた病気」(例:労作性狭心症、運動誘発性不整脈など)もあります。もし、動悸、息切れ、胸の痛みなどの自覚症状がある場合は、健康診断の結果を待たずに、専門医を受診し、必要に応じて運動負荷心電図などの精密検査を受けることをおすすめします。