治療

複数のタイプがある狭心症

典型的な症状は胸痛

狭心症では、胸の中央部が締めつけられる、あるいは何かを押しつけられているような圧迫感を感じます。
痛みは、左肩・腕やあごまで広がり、ときには左の奥歯やみぞおちのあたりが痛むこともあります。痛みの場所は境界がはっきりしません。
「ここだけが痛い」と指で示せるような場合は、狭心症の可能性は低いといっていいでしょう。症状の持続時間は致10秒から数分で、30分とか1時間以上も続くことはありません。息切れや呼吸困難として自覚されることもありますが、これが狭心症による場合は、かなり重症である可能性があります。

労作時に起こるタイプと安静時でも起こるタイプがある

狭心症には冠動脈の動脈硬化が原因で起こるタイプと、冠動脈のけいれんが原因で起こるタイプがあります。

労作性狭心症

冠動脈硬化のために血液の通り道が狭くなつていると、運動や緊張など何らかのきっかけで、心臓がふだん以上に酸素を必要としたときに、その供給が間に合わなくなることがあります。心筋が酸欠状態になり胸痛が起こりますが、このように何らかの労作や緊張をきっかけにして起こる狭心症を、労作性狭心症といいます。きっかけとしては、

  1. 急ぎ足で歩いた
  2. 階段や坂道を登った
  3. ひどく興奮した
  4. たばこを吸った
  5. 食事をした

などがあります。
ほかにも、重いものをいきなり持ち上げたり、急激に冷たい空気にさらされたときなどにも、発作が起こることがあります。
また、悪条件が重なる、たとえば、会議中にイライラしてたばこを立て続けに吸い、興奮して立ち上がったときに、強い胸痛に襲われたという人もいます。川崎病の後遺症や、大動脈弁膜症が原因で起こることもあります。

血管撃縮性狭心症

冠動脈が勝手にけいれんして縮んでしまうと、冠動脈に一時的に動脈硬化と同じような詰まりが生じて発作が起こることがあります。
これを血管撃縮(=スパスム)性狭心症といいます。血管内皮に何らかの異常が起こっていて、自律神経系の異常が起こつたときなどに引き起こされるのではないかといわれています。
これは日本人に多く、深夜や明け方の就寝中など安静時に起こるため、安静時狭心症とか異型狭心症といわれます。
労作性狭心症が心筋の酸素の需要が増えるとき起こるのに対して、安静時狭心症は一方的に酸素供給が減ることで起こります。
血管撃縮性狭心症の中には、労作で攣縮が誘発されるタイプもあります。また、冠動脈狭窄があり、それに加えて冠撃縮が起こる場合もあります。このタイプは、とくに日本人に多いようです。

心筋梗塞への移行が心配な不安定狭心症

狭心症は病状によって、安定狭心症と不安定狭心症に区別されます。

安定狭心症

狭心症の患者さんのなかには、どの程度の動作あるいは緊張によって発作が起こるのか、経験でわかっている人がいます。
たとえば、毎朝いつもの駅で階段を上がりきったところで症状が出て、2~3分休むと治ってしまう、というような発作です。これは安定狭心症といわれ、発作が起こっても、安静にしたり、薬を使うと症状が治まります。このタイプの人の血管の内部を調べると、動脈硬化のために内腔が狭くなってはいても、プラークが右H灰化して硬く破れにくくなっていることが多いのです。定期的な検査は必要ですが、急に心筋梗塞に移行する可能性は比較的低いといわれています。

不安定狭心症

新しく出てきた労作性狭心症や安静時狭心症、あるいはいままで安定型であっても発作の回数が増えたり症状が強くなる、
あるいは長引くようになつたものは、不安定狭心症と診断されます。ニトログリセリンが効きにくくなったり、静かにしていても発作が起こるタイプも不安定狭心症です。このタイプの人の冠動脈の内部を観察すると、血液の通り道が狭くなっているほか、プラークが出崩れやすい状態になっています。
血栓を作りやすかったり、血管のけいれんも起こりやすくなっている可能性があります。不安定狭心症は、プラークが崩れたり血栓となつて、血管を詰まらせる可能性があります。心筋梗塞の前兆ともいえるタイプです。約3分の1が心筋梗塞に移行するといわれ、危険な急性冠症候群の一つに数えられています。このため、入院して、心筋梗塞と同じような管理が必要となります。

糖尿病、高齢患者では気づかないこともある

狭心症の発作の中には、1分くらい軽い胸痛があってもU、すぐに治まって、それと気がつかない場合もあります。
高齢者や糖尿病のある人では、痛みの感覚が低下していて気づかない例も少なくありません(無痛性虚血性心疾患)。
痛みがないからといって、病気が軽いわけではありません。症状がない分、無理をしたり、発見が遅れるなど、危険率が逆に高くなります。
とくに、糖尿病は全身の血管に動脈硬化を引き起こす病気です。虚血性心臓病になると、予後はよくありません。自覚症状に頼らず、冠動脈のチェックをしておくことが欠かせません。

狭心症と心筋梗塞の異なる点

狭心症は虚血、心筋梗塞は元に戻らない

狭心症と心筋梗塞は、虚血性心臓病(心疾患)、冠動脈疾患とも呼ばれます。何らかの原因で、動脈の内腔が狭くなったり、詰まる、あるいは冠動脈壁がけいれんを起こして血流が妨げられ、心筋が虚血状態になったときに発症します。心筋にポンプ運動に見合う酸素が供給されず、酸欠状態から強烈な胸痛、いわゆる狭心痛が起こります。しかし、虚血性心臓病には無痛虚血性心臓病と呼ばれるものものあります。

病気の原因は同じですが、糖尿病の神経障害などで、胸痛などが出ないのです。症状がなくても、病気の重大性はまったく同じです。狭心症と心筋梗塞の違いをひとことでいえば、狭心症は、血液の通り道が狭くなり一時的に血流が低下したり、運動などで血流がたくさん必要なときに、血液の需要と供給のバランスが崩れた状態です。安静にしたり薬を飲むことで、心臓の要求に見合う血液量が回復すると発作は治まります。発作は1~10分くらいが多く、15分以上続くことはまずありません。一瞬チクリとする痛みは、狭心症でないことが多いのです。心筋梗塞とは、血管が詰まって血流が途絶えた状態です。詰まった先の血流が回復しないと、虚血状態になった心筋の部分が死んでしまいます(壊死)。その間に不整脈や心不全、ショックなどを引き起こし、大事に至ることも少なくありません。

血管内腔が狭くなる狭心症

虚血性心臓病の多くは、動脈硬化が基礎にあって発症します。動脈はいろいろな危険因子により炎症を起こし、厚く硬くなって弾力性を失っていきます。
かたよった食生活や運動不足などが続くと、血管の内壁にコレステロールなどがたまり、線維成分などとともにアテロームプラーク(以後プラークといいます) というもろい粥状のかたまりを作って沈着します。
プラークは血管壁の内膜でおおわれていますが、その外見はまるで水道管の内側の水あかのように盛り上がり、血液の通り道を狭くします。正常な冠動脈では、運動などで心臓が酸素をよけいに必要になると、血液量を増して心臓の要求に応えます。
しかし、冠動脈硬化が進んで狭くなった状態では、心臓がふだん以上の仕事をするときに酸素が足りなくなります。心筋は酸欠状態になつて、胸痛という悲鳴をあげるのです。それでも安静にしたり薬を使うことで、酸素の需要と供給のバランスが戻ると、発作は治まります。この状態を労作性狭心症といいます。
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血栓が血管を塞ぐ心筋梗塞

何らかのきっかけでプラークをおおう内膜が破れると、プラークの中身が血管内に露出します。これは異物なので、血液中の掃除屋であるマクロファージが集まってきます。そこに血小板が集まって傷口をかさぶたのようにおおって血栓(血液のかたまり)を作ります。
さらに赤血球もくっついて血栓は大きくなります。血栓はときには増大と溶解を繰り返して、あっという問に大きくなり、冠動脈を完全に塞いでしまうことがあります。
これが心筋梗塞です。血管がそれほど狭くなっていなくても、プラークが破裂してグズクズと広がれば、それだけで血管が塞がって、心筋への血流が途絶えてしまうこともあります。心筋梗塞は、運動やストレスなど心臓がいつも以上の酸素を必要とするときでなくても、発症することがあるのです。