心臓病による症状

胸痛、息切れ、むくみ、だるい、動悸など

心臓の働きやしくみに異常が生じると、さまざまな症状が現れます。大別すると

心虚血の症状

胸の痛みや圧迫感、締めつけられる、のどが詰まる、奥歯や左肩、上腕の痛み

心不全や心拍出量低下の症状

だるい、疲れやすい、呼吸が苦しい、息切れ、むくみ、めまい、失神。

不整脈の症状

動悸がする、脈が乱れる、胸苦しい… などがあります。これらは心臓病の代表的な症状です。そのほかの病気で起こることもありますが、こうした自覚症状があるときは、まず心臓病の可能性を考えて、診察や精密な検査をします。心臓病では自覚症状がなく、突然発作を起こすこともあります。こうした症状を胃の不快感だと勘違いしてしまうケースもあります。
運動中に発作を起こしたり、過労などが誘因になることもあります。糖尿病がある場合などは、本来とても痛いはずの心筋梗塞発作でも、痛みをまったく感じないこともあります。

胸が痛く締めつけられる

胸痛は狭心症、心筋梗塞の典型的な症状です。胸が圧迫されたように、あるいは締めつけられたように痛みますが、痛みの範困や感じ方は人によって異なります。
多くの場合は前胸部のやや下あたり、胸のほぼ中央に痛みを感じます。
心臓は左寄りにあるので、痛みを感じるのは左側と考えがちですが、そうとはいえません。放散痛といって、痛みがほかの場所へ走ったり散るように感じるのも、狭心症、心筋梗塞の痛みの特徴です。
みぞおちのほうへ走る痛みを感じたり、左肩から左腕、さらに左手の小指側に、圧迫感やしびれを感じることもあります。奥歯に放散する場合もあります。右側にこうした痛みを感じる人もいます。肩から背中、肩甲骨のあたり、あるいは首のつけ板や下あごに圧迫感を感じることもあります。

狭心症の痛み方

狭心症では、こうした痛みが1~2分、長くて15分くらい続きます。階段や坂道を上ったり急ぎ足で歩くなどの労作で起こる労作性狭心症、安静にしていても起こる安静狭心症があります。はじめて発作が起こつたり、発作の回数や強さが増したり、労作時に起こっていた発作が安静時に起こるようになつた場合、不安定狭心症と呼ばれ危険です。

心筋梗塞の痛み方

安静にしていても起こり、痛みがさらに強烈で長く続きます。胸をえぐられるような痛みに襲われ、死の恐怖を感じる人が少なくありません。
前ぶれとして短い胸痛発作を経験している人もいますが、何の前ぶれもなく強烈な痛みに襲われることもあります。心臓の機能が急激に損なわれ、各臓器に血液が十分に供給されないため、チアノーゼといって顔色が紫色になったり、冷や汗、動惇、めまいなどを起こすこともあります。吐いたり意識を失うこともあります。
突然のこうした発作は、大動脈解離、大動脈癖、肺塞栓症などでも起こります。急いで救急車を手配しなければなりません。

肺の病気でも起きる痛み

胸痛は急性の心筋炎、心腹炎、胸膜炎、肺炎でも起こります。これらは発熱やかぜのような症状を伴う例が多いものです。
胃炎や食道炎、筋肉痛、骨の痛みで起こることもあります。帯状癌疹では痛みとともに赤い水痘状の発疹が出ます。肋間神経痛では肋骨に沿って鋭い痛みが走ります。心臓神経症や過換気症候群では、心臓や肺に異常がないのに胸痛、動惇、呼吸困難が起こることがあります。

息切れ・呼吸困難

息切れ、息苦しさは呼吸困難といい、心不全の症状のひとつです。
心臓のポンプの力が低下すると、肺への血流が少なくなるため、炭酸ガスの排泄や酸素の取り込みが少なくなります。最初は運動したときに、ふだんより呼吸数が増し、ハアハアと呼吸が速くなります。
これまで平気で上り下りできた階段で息切れがしたり、平地でも話しながら歩くと息が切れるようになります。これを労作時呼吸困難といいます。同じ量の炭酸ガス排出および酸素の取り込みに必要な換気量が増えた場合、肺の毛細管庄が高くなつた場合などに起こります。悪化すると、安静にしていても息苦しくなります。寝床に入って1~2時間くらいで息苦しくなり、軽度のうちは枕を高くすると楽になります。さらに悪化すると、横になるより座ったり立っているほうが楽になります。
起座呼吸といって、座ってゼーゼーと息をすることもあります。こうした症状は気管支ぜんそくに似ているので、心臓ぜんそくといいます。息切れ、呼吸困難は、心不全による場合が多く、狭心症や心筋梗塞の発作を起こした経験のある人では、心臓に負担がかかり過ぎると、胸痛とともに心臓ぜんそくでは起座呼吸も・‥心不全が起こり、肺、うっ血が引き起こされ息苦しくなることがあります。糖尿病の人の狭心症発作では、胸痛よりも息苦しさを強く感じることがあります。

呼吸器系の病気も

息切れ、呼吸困難は、慢性の気管支ぜんそく、気管支炎、肺気腫など呼吸系の病気でも起こります。肺に水などがたまる胸膜炎でも起こります。肺の病気が心臓に負担をかけたり、心臓の病気が肺に負担をかけて、症状を起こすこともあります。たとえば結核や肺血栓塞栓症、肺高血圧症による右心不全が知られています。また、心不全のときには、ピンク色の泡状の痰が出ることがあります。
貧血が悪化すると、血液中の酸素を運ぶ赤血球やヘモグロビンという物質が少なくなり、酸素不足から息切れを起こすことがあります。貧血は若い女性に多い鉄欠乏性貧血のほか、胃潰瘍や消化器系のがん、子宮筋腫などでも起こることがあります。

むくむだるい、疲れやすい

むくみは医学的には浮腫といいます。健康な人でも、一日中立っていたり、長時間足を動かさないでいると、足がむくむことがあります。足を動かすことは、からだの下側にたまりがちな水分を循環させるために必要です。心臓のポンプの調子が悪くて心不全になると血液中の水分を汲み上げる働きが低下して、組織にたまりがちになります。
むくみは足に出やすく、朝のうちはそうでもないのに、夕方になると勝れぼったくなり、足の甲やすねを押すとへこんですぐには戻りません。足だけでなく、肝臓や肺など全身におよびます。むくみは心不全のサインです。
肝臓や腎臓の病気でも、起こることがあります。肝硬変では腹水といい、おなかに水がたまり、ひどい場合は手足にもむくみが広がります。急性腎炎や慢性腎不全などでは、尿量が減ってむくみが出ます。こちらは顔やまぶたが腫れやすくなります。

心不全による倦怠感

だるい、疲れやすいといった症状は、過労や睡眠不足で起こることがありますが、心臓病ではポンプの働きが低下して活動量に応じた酸素と栄養分を供給できなくなったときに起こります。心不全が軽いときは朝のうちは元気で夕方になるとだるくなります。病状が進むと少し動いただけでだるくなったり、じっとしていてもだるくなります。
息切れなどの症状も伴います。慢性の心不全では、疲れると休むということで、だんだん動かなくなり、栄養や酸素の供給が慢性的に少なくなることに相まつて、骨格筋の質が悪くなり筋肉量が減っていきます。このため、久しぶりに急いで歩いたり走ると、からだがついていけない、ということが起こります。
こうした症状は、心臓から各臓器に十分な血液が送られていないときや、からだの代謝機能が低下しているときに起こります。肝臓病、甲状腺機能の異常、がん、肺結核、重度の貧血などでも症状が出ます。偏食、小食などで起こることもあります。

動悸・脈が乱れる

動惇は、緊張したり興奮したり、運動をしたときなどには、だれにでも起こります。

  1. 脈が飛ぶ、何拍かごとに脱が抜ける、リズムが乱れる
  2. 脱が速い(頻脈)
  3. 脈は規則正しいが、遅く強く打つ(徐脈)
  4. 脈の乱れはなく、脈拍が速くも遅くもないが、強く打つ感じなどがあります。

1、2、4は不整脈と呼ばれます。これらには心配なものと、そうでないものがありますから、心電図で、どんな不整脈なのか、原因となる病気がないかどうかを調べることが必要です。心不全などが原因のこともありますし、ときに失神や突然死につながることもあります。
4は、血圧の上がり過ぎ、貧血、甲状腺機能完進症などで、起こることがあります。過換気症候群や心臓神経症などストレスのために、ドキドキすることもあります。
心臓の働きや血圧は自律神経によってコントロールされていますから、自律神経の調子がよくないときにも、動惇がしたり脱が乱れたりします。
睡眠不足、酒の飲み過ぎ、喫煙などがきっかけで起こることもあります

めまい・失神

めまいや失神は、脳への血流が減ったときに起こる症状です。心臓病では、狭心症や心筋梗塞、不整脈、心臓弁膜症など心拍出量が極端に減ったときに起こります。
心室頻拍や心室細動などの不整脈の場合は、突然死に結びつくことがあります。自律神経の機能が不調なときにも、めまいや失神を起こすことがあります。学校の朝礼などで生徒が倒れるのと似た、起こり方をします。
めまいはメニエール病、突発性難聴など耳鼻科系の病気で起こることもあり、この場合は耳鳴りや難聴などの症状を伴いますご且ちくらみは、不整脈、貧血、起立性低血圧でも起こります。

心臓トラブルの経過

冠動脈硬化が進行すると血流が減る

心筋に新鮮な血液を供給する冠動脈は、安静時と運動時で血液の流量が異なります。運動などにより多量の血液が必要なときには、血管壁の平滑筋がゆるんで血管が拡張し、多量の血液が流れやすくなります。
血管は加齢により、老いていきます。なめらかだった血管壁の内皮は、年齢とともにザラザラとして、コレステロールがたまりやすくなり、血のかたまり(血栓)なども付着しやすくなります。
さらに動脈壁も硬く厚くなっていくため、血液の通り道はいっそう狭くなっていきます。
なお、この動脈硬化は、今では「老化現象」とされしかたのないものと思われていましたが、最近では「炎症」と考えられるようになり、今後は治療法が見つかるかもしれません。こうして血液の通り道が狭くなり、およそ75% 以上の狭窄になると、心筋に十分な酸素を供給できなくなることがあります。
冠動脈が狭くなると、心筋への血流が制限されます。安静にしているときは、心筋もそう多くの血液を必要としないため、血液の需要と供給のバランスが保たれていることが多いのですが、運動などで心筋が多量の酸素を必要とすると、血流量不足から心筋が酸素不足になります。これは、運動ばかりでなく、階段の昇降などでも起きます。
こうした状態を虚血といいます。早く歩いたり、階段を上ったりしたときに起こる労作性狭心症は、虚血性心臓病の一つで、酸素不足から胸が苦しく痛くなりますっさらに動脈が詰まってしまうと、血流が途絶えて心筋に酸素が運ばれず、心筋が死んでしまいます: この状態を心筋梗塞といい、強烈な胸の痛みが続きます。

心筋梗塞の発作は、運動がきっかけとは限りません。血管内の血栓がよどんで血液の通り道がふさがれてしまえばいつでも起こりうるのです。心筋梗塞を起こす前の冠動脈の状態は、6割以上が狭窄の程度が低い状態だったこともわかっています。

つまり冠動脈造影などの検査で狭いところが見つかっても、すぐには治療の対象とならない軽い病変が、突然に、完全閉塞を起こして心筋梗塞を発症することが多いのです。
この点は重要です虚血性心臓病の発作が起ころと、心筋の動きが悪くなり心臓のポンプ機能が低下します。急性心不全といい、強い発作の場合は、そのままポンプ機能が停止してしまうケースもあります。
心筋虚血が起こった場合によっては刺激伝達系が損傷して脈が乱れることもあります。ときに死を招くような不整脈を引き起こすこともあります。

冠動脈のけいれん

冠動脈の血流は、平滑筋の異常なけいれんによって流れにくくなることもあります。原因は自律神経の異常、あるいは、血管の一番内側にある内皮と呼ばれる一層の細胞が障害を受けて、起こると考えられています。
血管の内皮の細胞は、血管を拡張させたり収縮させる物質を放出して血管の緊張状態や太さをコントロールしています。
けいれんはスパスムといい、運動とは無か関係に狭心症の発作を起こします。特に夜中や明け方、寝ているときに起こる「異型狭心症」が有名です。

高血圧がポンプに負担をかける

高血圧があると、左心室が大動脈に血液を送り出すときに、それ以上の高い圧力を作る必要があります。したがって血圧が高いほど、心筋の負担は大きくなります。負担に打ち勝つため、心筋は厚く肥大します。心肥大を起こすと、心室の壁は進展しにくくなり、心房からの血流を受け取りにくくなる「拡張障害」という状態が起こります。
これは高齢者の心不全の原因の3分の1以上を占める重要な痛態です。肥大を起こした心筋は、よりいっそう酸素を必要とします。
しかし、酸素を供給する毛細血管はそう増えませんから、心筋はやがて酸欠状態になります。拡張障害や虚血が起こると、やがて心筋の収縮力が弱まり、ポンプの働きが低下することになります。
高血圧は動脈硬化の強力な危険因子となります。
冠動脈硬化のために、心筋への血流量が不足する例も少なくありません。また、高血圧と動脈硬化は、互いに影響し合って病状を悪化させます。

不整脈の危険性

心臓は血液を循環させるために、規則的に収縮と拡張を繰り返していますが、安静にしていても、動悸がしたり脱が乱れる状態を不整脈といいます。不整脈は心臓のポンプ作用に指令を与える電気系統のトラブルによって起こります。トラブルの原因としては、

  • 先天的なもの
  • 生活習慣の乱れ
  • 全身の病気
  • 心鹿の病気

などがあります。不整脈といっても、その種類はさまざまです。大まかに分けると、リズムが不規則になるタイプと、リズムは規則的だが脈拍が増える頻脆型、脈拍が少なくなる徐脈型があります。不整脈は、そのすべてが生命に関わるわけではなく、放置しても構わないものもたくさんあります。
反対に心臓のポンプ機能を低下させたり、停止させてしまうものもあります。
次は、命に大きく影響する不整脈のいくつかです。

心房細動

脈拍が速くなったり遅くなつたり、でたらめになるのは、心房細動です。心房での電気興奮が洞結節ではなく心房筋のあちこちで起こるため、心房が細かく震えるような状態になります。
その結果、心房は補助ポンプとしての働きがうまくいかないため、心臓全体のポンプ力も低下します。からだを動かすと心拍数が増加しやすく、動惇や息切れが起こりやすくなります。安静にしていても心拍数が速くなることがあり、高齢者では、長時間続くと心不全になることもあります。
心拍出量が低下し、心房壁が規則正しく収縮しないため、血液がうっ滞して血栓を作りやすくします。この血栓が全身に流れて脳そくの血管に詰まると、心原性脳塞栓を起こし、命に関わるにとなることもめずらしくありません。

心室頻拍・心室細

心室頻拍といって、突然、心室が興奮を繰り返し、毎分150~200回くらいの頻拍が続くと、心拍出量が極端に減って、失神することがあります。
心室細動では心室のあちこちで興奮が発生し、心室全体が細かく震え、ポンプ機能が失われます。電気的には興奮していても、ポンプとしては止まってしまった状態になります。
心室頻拍や心室細動は、心筋梗塞や心筋症、心臓弁膜症などで心筋の力が低下していると起こりやすく、原因がわからないこともあります。

弁膜症も機能低下

心臓弁膜症は、心臓の血液の逆流を防ぐ弁膜の開閉がうまくいかない状態です。心臓には4つの弁があります。いずれの弁でも、弁の開放が不十分になる「狭窄症」と、弁がぴったり閉じずに逆流を生じてしまう「閉鎖不全症」が起こります。その結果、血液の流れがスムーズにいかず、ポンプ機能が低下します。
心臓のポンプとしての働きは、さまざまな原因によって低下します。たとえば次のようなことが挙げられます。

心筋の収縮力の低

心筋の一部が壊死する心筋梗塞は、心臓全体としてのポンプカを低下させます。ほかに心筋症や心筋炎などでも心筋が弱くなります。

心拍数の異

心拍数が多過ぎると、心臓の拡張時間が短くなるため、心房から心室に十分な血液が流れ込まなくなります。結果として、大動脈へ送り込む血液量(一回拍出量) が減ってしまいます。
また、冠動脈から心室筋へ血液が供給されるのは心室筋が弛模している拡張期なので、拡張期問が短いと心筋への血流が減る場合があります。
心拍数が少な過ぎても、一定時間内に送り出す血液量は少なくなります。これらは心筋のエネルギー源を不足させることになります。

血液を送り出しにくい

これは心筋への負担を大きくします。高血圧、大動脈弁狭窄でも血液を送り出しにくくなります。

涜入する血液が多過ぎる

血流を調整する心臓への負担を大きくします。心臓弁膜症のために、弁が働かなくなっているときに起こります。腎不全や肝硬変で血管内の水の量が増えたり、甲状腺機能の異常などの場合もあります。

だるさやぢくみ、息切れ

心臓のポンプカが弱って、全身に血液を循環させるという心臓本来の働きがうまくいかない状態を心不全といいます。
血液が十分に行き渡らない臓器では、代謝活動が損なわれます。皮膚の色が悪くなり、全身がだるく、疲れやすくなります。血流が悪くなるため、むくんだり、息切れすることもあります。

慢性・急性

心不全には、慢性心不全と急性心不全があります。慢性心不全は、心臓のポンプカが慢性的に弱っている状態です。少しのきっかけで、急速に心機能が低下することがあります(慢性心不全の急性増悪)。急性心不全は、心筋梗塞など突然の心臓病で、ポンプカが急激に低下する状態です。激しい症状で死に至ることもあります。

心臓の仕組みと働き

血液をポンプのように送り出す

心臓病は、当たり前ですが、心臓が正常に働かないことによりトラブルが生じ起きます。なぜ、どのようにしてトラブルが起こるのか、その仕組みをしっかり理解することで、病気の治療や予防などの対策が立てやすくなります。また、医師の言うことも理解しやすくなります。
そのための基礎知識として、まず心臓のしくみと働きについてです。
人間のからだは、一つ一つの細胞が活動することで生命を保っています。細胞の活動に必要な酸素と栄養素は血液によって運ばれますが、その血液を全身にくまなく循環させているのが心臓です。
心臓は、一定のリズムで拡張(弛緩)して血液を受け入れてから、収縮して全身に血液を送り出します。いわば、自動ポンプの役割を果たしています。私たちは心臓のポンプ作用をドキドキという鼓動(拍動)や脈拍に触れることで確認することができます。

4つの部屋の心筋が働く

心臓はどのようなしくみでポンプを動かしているのでしょうか?まず、心臓の構造かです。心臓の重さは成人で約200~300gくらい、握りこぶしくらいの大きさです。胸の中心線よりやや左にあります。

心臓を縦割りにすると、その中は左心房、左心室、右心房、右心室という4つの部屋に分かれています。左右の心室と心房の問には、心室中隔、心房中隔という壁があり、左右それぞれの心室と心房の問は弁で仕切られています。
心臓の壁は、そのほとんどが心筋という特別な筋肉でできています。
この心筋の強い力によって、心臓のポンプ作用が作動し、血液を全身に循環させているのです。なかでも左右の心室はそれぞれの心房から血液を受け取ってから、動脈へ送り出すメインとなるポンプの役割を果たします。一方、左右の心房は静脈からの血液を受け入れ、心室の補助ポンプとして働きます。
心室と動脈、心室と心房の問にある合計4つの弁は、ポンプの動きに連動して開閉し、血液の逆流を防ぎます。心臓は毎分60回前後、収縮と拡張を繰り返し、1日の収縮回数は10万回以上にもなります。

全身の血液循環には2系統

血液は心臓から送り出され、全身を巡って心臓に戻ってきます。この血液循環には、左心室から全身を巡り、右心房に還流する体循環(大循環)と、右心室から肺を経て左心房に還流する肺循環(小循環)があります。

心臓というポンプのうちで最も大きい役割をしているのは、左心室になります。肺で酸素を取り入れた血液は、左心房から左心室に入り、左心室の強力な収縮によって大動脈に送り出されます。大動脈から枝分かれした動脈は、さらに小動脈、毛細血管となって、筋肉や皮膚などの組織、細胞に酸素や栄養分を運搬します。
酸素をたくさん含んだ血液は、動脈血と呼ばれます。細胞の生命活動の結果、不要となった老廃物や炭酸ガスは、静脈血となって小静脈から大静脈を運ばれ右心房に還流します。

右心房から右心室に入った静脈血は、右心室の収縮によって肺動脈に送り出され、肺小動脈を通って肺胞に接した肺毛細管に運ばれます。そこで肺毛細管から炭酸ガスが肺胞に排泄、逆に酸素が肺胞から取り込まれ、酸素を含む新鮮な動脈血が肺静脈を通って左心房に還流します。

心筋にエネルギーを供給する冠動脈

心臓がポンプとして働き続けるためには、これを動かす心筋に十分な酸素と栄養分が供給されなければなりません。その役割を担うのが、心筋に冠のように張り巡らされた冠動脈(冠状動脈 です。冠動脈は大動脈の根元から左冠動脈、右冠動脈に枝分かれして心臓の表面を走ります。
左冠動脈は、すぐに前下行枝と回旋枝に分かれます。この二本と右冠動脈を合わせた三本が主要な冠動脈で、さらに細かく枝分かれした血管が心筋全体を網の目のように走っています。
左冠動脈前下行枝はおもに左心室の前壁と心室中隔に、左冠動脈回旋枝は左心室の側壁から後壁に酸素と栄養分を供給しています。右冠動脈はおもに右心房と右心室、左心室の下側の壁に酸素と栄養分を供給します。冠動脈は毛細血管でガス交換をしたあと、冠静脈となって右心房に流入し、上下の大静脈を流れてきた静脈血と合流します。

ペースメーカーの役割は特殊な細胞が担う

心筋が規則正しくポンプ運動を続けられるのは、ペースメーカとなる特殊な心筋細胞と、心筋全体にその電気信号を伝える刺激伝導系というシステムのおかげです。心筋にはポンプの働きをしている作業心筋とは別に、特殊心筋という筋組織があります。心筋組織は、作業心筋を収縮させるための電気信号を発生させ、さらにその信号を伝える中継所や電線の役割を担っています。
電気信号は、右心房の上部にある洞結節という特殊心筋のかたまりから発信されます。
こから出た信号は、心房の中を走る電線、心房内伝導路を伝わって心房筋を収縮させます。心房内に広がった信号は、房室結節という特殊心筋のかたまりに中継され、一時的に速度を落とし、ヒス束から右脚・左脚に分かれます。さらにプルキンエ繊維という網目状の特殊心筋を経て、心室全体に伝わり、心室の筋肉を収縮させます。
この一連の回路を刺激伝導系といい、これにより心臓の自動式ポンプは円滑に動いています。