退院までのリハビリ

運動療法が有効

心筋梗塞や狭心症、あるいは心臓の手術後は、からだを動かすことに不安を感じる人が多いようです。しかし、発作や手術のあとで病状が安定したら、なるべく早くから、からだを動かすことが大切です。
そのために行うのが心臓リハビリテーションです。以前は、病気や手術からの回復の時間が長かったため、リハビリテーションというと、安静にしていたために衰えた筋力など、体力を回復させることに主眼を置いていました。
しかし、最近では症状が安定してから行う運動は、単に体力を回復させるだけでなく、心臓病の病状そのものを改善し、治療として効果があることがわかってきました。そのため、薬物療法などとともに、治療の一環として、運動療法に取り組む医療機関が増えています。

運動療法の効果

運動療法は、とくに狭心症や心筋梗塞などの冠動脈の病気、そして心臓の手術後の治療として、その有効性が認められています。
軽症〜~中等症の心不全や下肢の動脈硬化による閉塞性動脈硬化症に対しても、有効性が認められてきています。運動療法の具体的な効果は、次のとおりです。

  • 冠動脈の障害を改善
  • 適切な運動療法を続けると、冠動脈の内腔が狭くなるのを防ぐことがわかっています。狭窄が改善され、血管の内脛が広くなることもあります。

  • バイパスの発達
  • 運動により、バイパス(側副血行) といって、心筋に血液を送る血管も発達します。狭くなった冠動脈のかわりに、血液不足の心筋に血液を補うことができます。
    また、バイパス術後に運動療法を行った患者さんは、運動療法を行っていない患者さんに比べて、バイパスに使った血管(グラフト)の開存率が高いことも確認されています。バイパス術の効果をいっそう上げるうえでも、運動が役立っているのです

  • ▼心臓のポンプ機能も改善
  • 心臓病の患者さんに対する運動療法は、心ポンプ機能を改善します。運動中の心拍出畳も増えます。

  • 運動能力を向上させる
  • 運動を続けると、運動耐容能(運動がどのくらいできるか、という体力的な能力)が増加することがわかっています。これは健康な人はもとより、狭心症や心筋梗塞、冠動脈バイパス術後、バルーン療法後などの虚血性心臓病、症状が落ち着いている心不全の状態などにおいても実証されています。
    また、健康な人と同様、心臓病の患者さんでも運動耐容能が増加すると、年間生存率が改善するといわれています。つまり、適切な運動を続けることで運動能力が高まると、寿命を延ばすことが可能になるわけです。

  • 骨格筋に対する効果
  • 運動を続けると、骨格筋量が増すこともわかっています。心不全の患者さんでは、有気的代謝を主に行っている赤筋が減って、無気的代謝が主体の自筋の相対的増加が見られ、持久力が低下して疲れやすくなります。運動療法は骨格筋量を増すばかりでなく、この筋線維の割合を正常化させ、持久力の改善に役立ちます。

  • 血管に対する効果
  • 心臓病が悪くなると、血管の拡張能が低下します。運動療法は血管拡張能を改善し、活動筋に対する酸素供給を増やします。

  • 突然死を防ぐ
  • 最近、心筋梗塞後や心不全の生命予後、とくに突然死に関連して、自律神経のバランスの異常が注目されています。運動療法は、自律神経のバランスを調整する神経・体液性因子に働きかけ、副交感神経の活性を改善することが知られています。これにより、突然死などの予防にも役立つとされています。

社会復帰できる運動能力を目指す

発作や手術後のリハビリテーションは、医師の管理のもとに安全を期して行います。入院中のリハビリの目標は、退院までに身の回りのことを楽にこなせる程度、サラリーマンであれば会社に通勤できる運動能力を取り戻すことにあります。

これだけ運動療法にはメリットが多いのですが、次のような場合、運動療法ができない場合もあります。
主治医とよく相談して行うのがポイントです。

  • 心筋梗塞の発症日
  • 不安定狭心症
  • 重症の症候性心臓弁膜症
  • 解離性大動脈癌
  • 重症の先天性心疾患
  • 重症の閉塞性肥大型心筋症
  • 心筋炎急性期、心膜炎急性期
  • 最近の血栓塞栓症
  • 心不全の症状が出ている
  • 急性の感染性の病気
  • 運動で悪化の可能性があるその他の病気
  • コントロールができていない不整脈

手術後の管理について

ICUでの面会は、感染に気を付ける

冠動脈バイパス術などの手術後の容体はしばらく不安定です。以前に比べると、患者さんへの負担が少ない方法が開発され、回復が早くなっていますが、術後、しばらくは緻密な管理が必要です。重大な合併症が起こりうることを想定して、患者さんを観察することになります。そのため、手術が終わると、患者さんはまずICU集中治療室)で2~3日間過ごして、集中的な医療と看護を受けます。
ICUでの面会は、ごく近しい人に限られ、時間も限定されます。患者さんは免疫力が低下していますから、ふだんなら発生しないような感染が起こることがあります。面会に際しては手を消毒し、マスク、キャップ、上衣を着け、スリッパに履き替えて入室します。患者さんは、手術中に出てくる血液やリンパ液、膿などを体外に排出するためにドレーンという管を取りつけられています。酸素吸入や輸液の点滴なども行われています。重装備の状態であることを念頭において、面会をしてください。

ICU症候群

ICUでは、からだのほうは順調に回復していても、全身麻酔から目覚めた患者さんは、自分がどこにいるのかわからなくなることがあります。2~3日は、妄想や興奮、錯乱状態になることもあります。精神的に不安定になり反抗的になったり、意味のわからないことをいうこともあります。これはICU症候群といい、重症の患者さんや高齢の人にみられがちです。
手術が順調に終わり、面会を待ち望んでいた家族につらく当たることもあります。そのときは、ICU症候群によるものと了解してください。
一過性のものですから、患者さんの態度で家族が一喜一憂しないようにしまししょう。病気のショックもあり、患者さんの精神的なストレスは非常に大きくなっています。
からだの自由がきかず、自由に話すこともできず、孤独感や不安感に襲われることも多いようです。不眠に悩む人も少なくありません。症状が強いときは、医師か看護師に相談しましょう。睡眠薬で不眠を解消するという方法もあります。家族も不安があるでしょうが、患者さんに対しては、できるだけ安心できるような雰囲気づくりを心がけてください。肩や手に触れるなど、スキンシップも患者さんの気持ちを安定させる効果があるようです。

リハビリは家族の協力や支えも必要

一般病棟に移ると、本格的なリハビリテーションがはじまりますが、心臓の手術後は積極的なリハビリが回復を早めます。患者さんのなかには寝ているほうが楽と考えたり、からだを動かすことに不安を感じる人もいます。家族はリハビリのンの意義を理解して協力しでください。

傷口からの感染にも注意する

開胸手術後は、胸骨をワイヤーで固定しています。くしやみをすると痛むことがあります。胸骨は半年ほどで自然にくっつきますが、それまでは前胸部を強くよじるような動作は避けるようにします。筋肉痛がつらい場合は、気軽に医師に相談してください。傷口にかさぶたが残っていたり、テープが残っている場合は、無理にはがすと、感染の原因になることがあります。自然に取れるのを待つようにします。

弁膜症の投薬以外の治療について

僧帽弁狭窄症では、カテーテルを使ったPTMC(経皮的交連切開術)が普及してきました。PTMCは、日本の医師が開発した方法で、開胸手術をせずに、先端に専用のバルーン(風船) をつけたカテーテルを挿入し、僧帽弁の狭窄部分を広げます。

カテーテルは、太もものつけ根の静脈から挿入し、まず右心房に挿入します。次に心房中隔に小さな穴を開けて、左心房から左心室まで進めます。僧帽弁のところで左心室側のバルーンをふくらませて、僧帽弁に固定します。
さらにバルーンの手前の部分をふくらませて米俵状にし、狭くなった僧帽弁を押し広げて癒着している弁の両端を広げます。この方法は、胸や心臓を切開する必要がなく、患者さんへの負担が少なくてすみます。治療の翌日には動くことができ、入院は数日から一週間程度です。ただし、心房内に血栓があると、治療中に血栓がはがれる恐れがあるので、この方法は行えません。僧帽弁の逆流がある場合には、できないことがあります。数年~10年ぐらいで再び狭くなることが多いのですが、再度行うことができる場合もあります。

手術による治療

弁膜症では、弁を修復する弁形成術も多数行われています。外科的手術で、人工心肺を使い、心臓を数時間止めて行います。
弁が変形したり、弁を支える腱索が切れて、僧帽弁が閉まりにくくなった場合などには、弁の悪くなった部分だけを切除したり、縫い合わせたりします。
弁の病変があまり進んでいない場合には、弁形成術を行うことで生涯にわたり正常に近い弁機能を維持できます。手術後は、数日で歩けるようになり、術後4週間ほどで退院するのが一般的です。

機械弁に置換後は血液をサラサラにする薬を飲み続ける

PTMC や弁形成術は自分の弁を生かすため、これから説明する弁置換術に比べて、血栓が
できる心配が少ないのです。しかし、弁の病変が進んだ場合は、弁を切除して人工の弁に取り替える弁置換術が必要です。
人工弁には金属性(主としてチタン)の機械弁と、ブタの大動脈弁やウシの心膜で作った生体弁があります。
機械弁は耐久性に優れ、約200年は壊れないとされています。しかし、生体弁に比べると、血栓ができやすく、機械弁を使う場合は一生、血を固まりにくくする薬(ワーファリン) を服用する必要があります。
生体弁は血栓ができにくく、心房細動という不整脈がなければ、術後3か月経過した時点でワーファリンを服用しなくてもよくなります。しかし、機械弁と比べると、耐久年数が短く、およそ5年くらいで再び弁置換術が必要になる場合があります。
術後は1週間日ごろから自転車こぎの運動療法をはじめ、1か月くらいで退院できます。
弁置換術後は、細菌感染に注意します。細菌が人工弁につくと、感染性心内膜炎(感染性人工弁) という危険な状態になります。
歯科治療その他の手術が必要な場合、必ず主治医と相談し、抗生物質を服用します。けがによる化膿、肺炎、高熱を発する尿路感染症、婦人科での処置なども要注意となります。