治療

心臓病の治療に使用される薬

ひとつの薬でも多種多様な効果をもたらす

心臓病の治療で処方される薬は、多種多様です。発作の予防薬として使う薬もありますし、現在の症状を軽くする薬、心臓の負担を軽くする薬、あるいは心臓の働きを強める薬もあります。
また虚血性心臓病の下地となつている高脂血症や高血圧に対する薬も処方されます。これから心臓病で処方されるおもな薬を説明しますが、なかには1つの薬でいくつもの作用を持つものがあり、同じ薬でも病状によって使う目的が異なる場合があります。また、症状が同じようでも、患者さんによって違う薬が処方されることもあります。医師が処方する薬は、その時点での患者さんの状態に合わせた、オーダーメードの治療薬です。治療効果を上げるには、薬の目的を理解し、指示どおりに使うことが大切です。

心臓機能の低下に対する薬の処方が変わってきている

ここ10数年で劇的に変わってきたのは、心筋梗塞や心不全で弱ってしまった心臓に対する対応の方法です。
以前は、心機能が低下しても相変わらず心臓を同じペースで働かせるために、心臓をムチ打ったり血管を広げて重荷を減らす治療が主流でした。最近は、心機能を維持するシステムが解明されてきたこともあり、そのシステムに働きかけて、弱った心臓が能力以上に働かなくてすむような、心臓を保護する薬の使い方もされるようになりました。その結果、機能が低下した心臓でも長く生きられる例が増えています。
また、虚血性心臓病の危険因子である高脂血症に対する治療薬は、選択肢が増えるとともに、発作を防ぐ効果が高いものが開発されています。
最近は、日本でも治療効果について大規模臨床試験が行われるようになりました。アスピリンの効果が認められたのも、そうした動きの1つです。

抗血小板薬

心筋梗塞や不安定狭心症などは、動脈の中にできた血栓によって引き起こされる例が多く、血栓ができるのを防げれば、心筋梗塞や不安定狭心症が起こりにくくなるのではないかと考えられています。
アスピリンは解熱頭痛薬として広く知られていますが、血小板凝集作用のあるトロンボキサン如という物質の生成を妨げる働きもあります。血小板は血管内で破れたアテロームのかさぶた役をして、血管を狭くする片棒をかついでいます。アスピリンを使えば、血小板が集まりにくくなり、血管が詰まるのを防げるのではないか、ということで心筋梗塞では再発予防の目的でアスピリンを使います。アスピリンは心筋梗塞になったことのない人に対しても、予防薬として使えるのではないかともいわれています。とくに虚血性心臓病の危険因子を数多く持つ人では、その発症を防げる可能性が考えられています。
副作用は、胃腸障害、出血傾向が挙げられています。抜歯などの手術を受けるときは、1週間くらい前から服用を中止します。また、ぜんそくの人では、ぜんそくの発作を誘発することがあります。

抗凝固薬

ワーファリンは血液を固まりにくくする薬です。心房柵動がある場合は、心臓内に血液がよどんで血栓を作ることがあり、その血栓が血流に乗って脳の細い動脈に達すると、脳の血管をふさぐ脳塞栓を引き起こすことがあります。
ワーファリンは、この血栓の形成を予防するために服用します。服用量は、患者さんの血液の固まりやすさによって異なります。多すぎると出血しやすくなり、止血しにくくなりますから、定期的に血液の固まりやすさを検査して服用量を決定します。出血しやすくなつたり、尿の色が赤っぼい、月経量が増えた、内出血しやすいというときは、医師に連絡してください。

硝酸薬

硝酸薬は血管を拡張して、発作を鎮めたり、予防する薬です。ニトログリセリンが有名です。ニトログリセリンの舌下錠は飲み込んでしまうと、肝臓で代謝されて効果がなくなります。このため、舌の下で溶かすか噴霧により、舌の静脈や口腔粘膜から直接吸収させます。舌下錠や噴霧剤は即効性がありますが、効果が長続きしません。
このため、発作の予防には持続性の硝酸薬が使われます。ニトロールR 、フランドールは、数時間以上効果が続きます。モルシドミン、アイトロールは、飲み込んでも肝臓で代謝されずに効果が持続します。ニトログリセリンや硝酸イソソルビドでは、内服薬、スプレー、貼付錠、テープがあります。

強心薬

ジギタリスという植物の葉は古くから心不全の治療に用いられていました。直接、心臓に作用して収縮力を増大させます。現在は合成したものが、さまざまな心臓病に使われています。治療に必要な血中濃度と副作用が出る血中濃度が近いため、ときどき血中濃度を測り直しながら使います。

アンジオテンシン変換酵素阻害薬

アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE) 阻害薬は降庄薬として使われてきました。血管平滑筋を収縮させ血圧を上昇させるレニンーアンジオテンシン系ホルモンの昇庄機構のほうを遮断するほか、キニンーカリクレイン系という降庄機構を促進することで、血圧を下げる役割を果たします。

アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬

アンジオテンシンⅡ受容体拮抗(ARB)薬は、レニンーアンジオテンシン系でアンジオテンシン変換酵素によって作られたアンジオテンシンⅡが血管収縮作用や動脈硬化作用、心筋肥大作用に働く受容体と結合するのを妨げます。これにより降圧薬、抗動脈硬化薬、そして心不全の治療薬としての効果を上げることができます。AC E阻害薬に比べ、副作用のからせきがないのが特徴です。

交感神経遮断薬

心臓と血管は、自律神経とホルモンなどの神経体液因子によって、その機能のバランスが保たれています。交感神経は、心臓では心拍数を速くし、心収縮力を強め、房室結節の伝導時問を短縮し、血管を緊張させます。ベータ遮断薬は、この交感神経のベータ受容体を遮断することで、心拍量を減らし血圧を下げます。

利尿薬、カルシウム拮抗薬、抗不整脈薬、抗高脂血症薬などが処方されます。

何が何でも禁煙

ニコチン=動脈硬化の原因に

狭心症や心筋梗塞など虚血性心臓病にとって、喫煙は絶対に避けなければなりません。たばこの煙には、ニコチン、一酸化炭素、タールなど数多くの有害物質が含まれています。
たとえば、ニコチンは体内でカテコラミンというホルモンの分泌を促します。カテコラミンには交感神経系を刺激する作用があります。これにより心拍数が増えたり、末梢の血管の収縮、血圧の上昇などが起こり、狭心症に結びつきます。
カテコラミンには血小板の凝集を進める作用もあり、血管を詰まりやすくします。また、肝臓に働きかけてコレステロールや中性脂肪の合成を促進し、善玉のHDL コレステロールを低下させる作用もあります。

有害ガスは体内で活性酸素を増加させる

虚血性心臓病の原因となる動脈硬化は、血管内によどんでいるコレステロールが酸化などの作用によって変性し、プラークを作ることで進行します。
たばこの煙に含まれる有害ガスは、体内で活性酸素を増やしてコレステロールの酸化を促したり、血管壁にある内皮細胞を傷つけ、動脈硬化を促進するのではないかとされています。さらに一酸化炭素は赤血球と結びつき、体内への酸素の取り込みを低下させるといわれています。
たばこを吸っている患者さんの急性心筋梗塞後の死亡率は、吸っていない患者さんの2倍に達することもわかっています。また、たばこはβ遮断薬の抗虚血作用を低下させるとの報告もあります。
喫煙は、心臓病の患者さんにとって最大の敵といっても過言ではありません。

受動喫煙が心筋梗塞の原因になることも

さらに最近は、副流煙を吸い込む受動喫煙が大きな社会問題になっています。自分がたばこを吸っていなくても、長年、たばこを吸っている人のそばにいる女性は、心筋梗塞の発症率が、そうでない人の2倍近くになるというデータがあります。
受動喫煙者では、LDLコレステロールが増え、善玉のHDLコレステロールが減る傾向にあり、血液が固まりやすく、少したばこを吸っている人なみに動脈硬化が進むこともわかっています。禁煙は患者さん本人のためだけでなく、周囲の人の健康のためにも欠かせないことです。節煙ではなく断煙ですぱっとタバコをやめることが大切です。

運動は再発予防に効果的

リハビリは退院後も必要

心筋梗塞などのあとには、心機能と身体機能の回復、社会復帰をめざし、再発を防ぐための心臓リハビリテーションを行います。心臓リハビリテーションのメインは、運動療法ですが、同時に病気の知識や薬の服用法、食事、生活での注意、応急処置、仕事のしかた、カウンセリングなども行われます。
いずれも医師、看護師、栄養士、健康運動指導士などが専門的な立場から指導します。最近は日本心臓リハビリテーション学会の認定試験にパスした心臓リハビリテーション指導士がいる施設もあります。心臓リハビリテーション指導士は、心臓病やその道動療法、運動生理学に十分な知識と経験を持つ人に与えられる資格です。

心臓リハビリにより死亡率が低下

心臓リハビリテーションは、さまざまな効果が証明されていますが、なかでも特筆すべきは、リハビリテーションプログラムに参加した患者さんを三年間追跡調査したところ、心血管系による死亡率が20~25%も減少していることです。
これは心筋梗塞に対するβ遮断薬療法や心不全に対するアンジオテンシン変換酵素阻害薬療法の効果と同等であるとされています。運動療法単独でも、心血管系による死亡率は約15%低下しています。

心臓リハビリは半年間保険適用

心臓リハビリテーションは、↓般に入院中の急性期(1140ページ)、退院後の回復期、維持期の三段階に分かれます。
現在、心臓リハビリテーションは、施設認定を受けている医療機関で行うと、発症から6ヶ月間、健康保険の適用を受けられまま安全にしかも効率的にリハビリテーションを行うには、退院後もできるだけ、こうした施設に通院して指導を受けることをお勧めしま宅施設では、医学的管理のもとに、前述の心臓リハビリテーション指導士による指導が受けられます。
運動の種類、強度、時間、回数などの運動処方は、運動負荷試験の結果によって作成されます。大きな筋肉を使う律動的な運動を、AT以下の無理のないレベルで行います。エルゴメータやトレッドミル、ウォーキング、軽いエアロビクスなどが中心で、メニューは患者さんごとに異なります。最近は機械を使った軽い筋力トレーニング(レジスタンス運動) なども取り入れられています。ストレッチング、体操などの準備運動(ウォームア
ップ) と整理運動(クールダウン) も行います。

運動を行う際の注意

運動は、低いレベルから開始し、徐々にレベルを上げていきます。はじめは弱い運動強度で、少しずつからだを慣らしていきます。リハビリをはじめた当初は、急速に運動能力が回復しますが、一定のレベルに達すると、目に見える効果が現れにくくなります。そのときにがんばり過ぎると、逆効果です。「楽~ややつらい」と感じる程度を維持することが大切です。運動施設に通えず、自分で運動を行う場合も、専門医の指導を受け、定期的に運動負荷試験などの医学的検査を受けることが大切です。
自分の運動能力と限界を把握し、次のような注意を守って安全に長続きさせてください。